見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

パウア狩りな年末

今年も残すところ5日となった昨日,念願のパウア狩りに挑んだ。ここ NZ の漁業制度は日本とは大きく異なり,ルールを守りさえすれば,パウアを採ってもウニを採っても問題にはならない。水産業に頼らないお国柄だろうか,それとも人口が少ないからこそなせる業か。いずれにせよ,僕のようにこれを魅力的と思う人は多いだろう。


まず重要なルールとして,NZ 政府の専門機関 DOC(Department of Conservation)の定める保護区域内では,いかなる生き物の採集も禁止されている。この範囲が非常に広く,しかも上手に設定されており,無闇に漁をできないようになっているようだ。例えば,自然環境は豊かだが簡単には辿り着けないような地域ではなく,誰もが簡単に漁に入れるようなお手軽な地域をあえて保護区に設定することで,漁のハードルを上げているように見える。昨日訪れた場所も,車止めから徒歩で 40 分くらいまでが保護区内で,むしろ自然の豊かな奥地は保護区から外されていた。


採れる数量にも限りがある。例えば NZ を代表する海産物のひとつでアワビの仲間であるパウアガイ(Black Foot)を北島で採る際には,12.5 cm 以上のもののみを一人一日 10 個まで持ち帰って良いという厳格な決まりがあり,守らなかった者は厳罰に処されるとある。転売も禁止されているようだ。的確なルールを設けることで,やりたい人がやりたい時に漁業をするという国民の権利を守りつつ,漁の対象となっている生き物も守る。そんな試みがなされている。詳しい記載は Fisheries New Zealand のサイトを参照のこと。


さて快晴の陽気の下,海に来てみたは良いものの,真夏のくせにさほど暑くなく,カラっとして湿度もない,実に快適な一日であった。強烈な日差しを避けて日陰に入ると,時折吹く風に肌寒く感じる時さえある。それでも,弱音を吐いてはいられない。念願のパウアガイを目指して意気揚々と乗り込んだ。



海水もさほど温かくはない,むしろ冷たい。ウェットスーツはない。スノーケルやフィンもない。マリンシューズとゴムの軍手,あとは海パン一丁だけの簡単な装備である。NZ 歴5ヶ月の移住者の実力などそんなものである。意を決して波打つ岩だらけの海に飛び込んだ!なんとしてもパウアガイを採るのだ!うおー!


おっ!でっかいイソガニがいた!
しかし,パウアガイが見つからない!


11 本足のヒトデが,ピンク色のウミウシがいた!
しかし,パウアガイが見つからない!


バカでかいカサガイが,サザエみたいなゴツい巻貝がいた!
しかし,パウアガイが見つからない!




楽しい!ひどく楽しい!
しかし,パウアガイが見つからない!


うおー!寒い!ちょっと休憩!


ここでちょっと休憩したのが良くなかった。リトライが辛かった。
勢いに任せてずっと入っていれば慣れてきただろうに。



それでも,海パンひとつで再び海に泳ぎだす。
波に揉まれながら,海藻の海を掻き分ける。


そしてその時は訪れた。
ん?あの海底の岩,岩の上に小岩があるぞ?んー?んー?


いっぺん水面に顔を出して,息を整えてから再び覗き込む。
岩の上の小岩,海藻の後ろに見えたそれは,紛れもないパウアガイだった。


素潜りをして岩にへばりつく。バールを差し込んで,一気に剥がした。
うおー!採った!採ったどー!


一度見つけてからはもうお手のもの,バンバンいた。岩の上の小岩は全部,パウアガイだった。
楽しい!楽しすぎる!あれ?寒くない?寒くない!全然!ぜーんぜん寒くない!


こうして時間を忘れて両の手に収まらないほどの収穫を得たのだった。
あんまり採っても食べきれないので,大きいのを数個ほど持って帰ることに。



生きたまま捌いて刺し身にし,でっかくぶつ切りにしてバター醤油で炒め,酢味噌で和えて肝ダレをこしらえ,それはもう幸せな日々を過ごしている。刺し身をつまみながらの NZ 産ビールが美味い!フライパン片手に飲む NZ 産ワインが美味い!すげぇ美味い!


図らずも贅沢この上ない年末となった。来年も楽しみで仕方がない。今ここにいることに,ここまで助けてくださった皆々様に心よりの感謝を。パウアガイを噛み締めつつ心よりの感謝を。それから,ビールを飲みつつ,肝ダレをすすりつつ。。


見聞読考録 2018/12/28

クリスマスな 12 月

NZ は,欧米である。少なくとも文化的にはキリスト教圏の影響が強い。そして1年で最もその特徴が色濃く現れるのが,生誕祭である 12月25日。そう,クリスマスである。


12月に入ってからというもの,ここ Palmy(Palmerston North の愛称)でもイベントが目白押しであった。週末はもちろんのこと,平日の夜にまでクリスマス関連の映画鑑賞会だとか,NZ Army のマーチングバンドによるパレードだとか,クリスマス市,サンタクロースの行進,プロの演奏家を呼んでの大規模なコンサートなどなど,各所で隙間なく大小様々なお祭りが繰り広げられており,目まぐるしいほどだった。オーケストラの生演奏を背景にベテランの歌手が魅せるコンサートは,行政が主催して無料で開催されているとはとても思えないようなレベルの高さだった。クリスマス市もとても良かった。一方,マーチングバンドとサンタクロースの行進はどちらも悪天候のため中止され,Palmy っ子はひどく残念がっていた。特にサンタクロースの行進に至っては当日の早朝にキャンセルの通知があったのだが,その時点での天候は快晴,イベントが行われるはずだった正午も快晴,夕方にちょこっと雨があったくらいだったので,Palmy の市民はお怒りであった。通知のあった Palmerston North の FB の公式アカウントには,「サンタさんは雨の予報だけでプレゼントを配らなくなるんですか?」とか「この青空が見えないんですか?馬鹿ですか?」みたいな,怒り心頭のコメントが溢れ返っていた。まさしく,炎上していた。Palmy のお子さんは毎年この時期にサンタさんに会えることを楽しみにしているようなので,親御さんのお怒りも頷ける。そういうことで,今年の Palmy はこれでもイベント的にはハズレ年だったと言えるかもしれない。


そんな浮足立った12月もいよいよ終わり,かと思えば今日は Boxing Day と言って,街中のお店が売れ残りを処分する特価の日らしく,街中は見たことがないほどに混み合い,未だにお祭り騒ぎは続いているようであった。


クリスマスから来年1月3日まで大学は閉まっている。年末年始に立ち入るには,特別な書類にサインをしなければならない。教授や事務員も皆,長期の休暇を取り,勤勉に大学に通う研究者も学生もほとんどいないことだろう。人のいない職場で何か良からぬことが起こっても面倒なので,僕もその間は研究室に立ち入らないことにした。あまりに優雅な生活に,日本との格差を思わずにはいられない。学ぶことの多い良い国に来たと,今の境遇に感謝の尽きないクリスマスであった。


さて,今年もたいへんお世話になりました。来年からもどうぞ当ブログをよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。


Merry Christmas & Happy New Year!


見聞読考録 2018/12/26

メモメモ...

マカラでアワビを採りに潜りました! - NZ を体験!


ニュージーランドの奇岩『モエラキ・ボルダーズ』訪問は満潮/干潮どっちがベスト? - Nature New Zealand


無料で野生のイエローアイド(キガシラ)ペンギンが見れるスポット 5 選 - Nature New Zealand


行きたいところがいっぱいあるなぁ。すごいなぁ。
いつか絶対行ってやるぞと,思いを込めてメモ。メモ。


見聞読考録 2018/12/18

Molluscs 2018 @ Wellington, NZ

ウェリントンでの学会を無事終えた。僕の発表についても無難に,ではないな。最初から最後までネタを飛ばしてやった。やってやった。


冒険の甲斐もあり,嬉しいことにかなりウケた。特にアロハシャツの知らないおじさん(多分,相当偉い人)が腹を抱えて笑っていて,見ているこちらまで楽しい気分になるほどだった。課題はやはり質疑応答かな,英語での応答はやはり難しい。日本語でも難しいのに。ねぇ。


発表内容として今回は,マダラナメクジの市民科学の最新の成果を選んだ。あれほどウケたのは,「wonder woman」として登場してもらった S Watanabe 氏と,「statistics freak」として登場してもらった Y Ohkubo 氏の功績だろう。それに,ささやかなネタにも笑ってくれた心優しい聴衆の功績とも言えるかもしれない。データの欠損する 14 日間も彼女は他の山に登っていたとか,統計の難しい話は彼が全部やってくれたので質問は受け付けないとか,そういう一言一言に心底楽しそうに笑ってくれた。ああいうのは,僕らも見習った方が良いと思う。


気づけば 12 月も一週間が過ぎようとしているらしい。正しく,年の瀬である。いやしかし,待ってくれ。それはまずい。非常にまずい。学会は,今回のように計画的に参加すれば,実りも刺激もあり概ねとても良いものだと思うが,それでも準備にかなりの時間を取られてしまうのはやはり考えものである。ようやく発表を終えた直後は,肩の荷が降りてすっきりやりきったような気がしてしまうが,そもそも考えてもみてほしい。その荷物を背負う必要はあったのだろうか。


そう,やるべき仕事を全て棚上げして,しゃにむに取り組んでいただけのことなのである。そして気づけば棚から崩れ落ちた仕事の山に埋もれ,茫然自失とするのだ。


そう,それが今の僕だ。おお,なんという為体。


でもブログに書きなぐったらちょっとやる気が出てきた。気がする。うん。


いつもお付き合いくださりありがとうございます。これからもばんがります。


見聞読考録 2018/12/07

Photo Gallery の更新

NZ に来て最初に行った旅行の写真を選抜して公開した。もう4ヶ月も前になるのか,光陰矢の如しとは良く言ったものだ。


その早さとは裏腹に,今日紹介する燃える夕日のような光も,昨日紹介した月暈(ツキガサ/ゲツウン)のような陰もあった。つくづく充実した日々を送れていると思う。


Mt. Ruapehu and Lake Taupo, Tongariro National Park, New Zealand, 11-13.Jul.2018 - Yuta Morii Website
https://yutamorii.wordpress.com/ruapehu-taupo/


海外で始めてスキーをしたのも,このときだったなぁ。Mt. Ruapefu(ルアペフ山)の Whakapapa Ski Area は日本の春スキーのような感じだった。7月11-13日といえば,日本では真冬 1 月中旬に相当するはずなのに,麓には雪がまったくないし,暑いし。それでも真っ白な雪原と荒々しい岩肌を晒したルアペフ山は目を瞠るほど雄大で,山麓の遥か彼方まで続く手付かずの大地は,下山のバスに乗り遅れ麓まで歩く間に見た山肌を焼く鮮やかな夕陽は,脳裏に焼き付くほどに美しかった。


まだまだ写真を選びきれていないけれども,少しずつ公開していく予定です。乞うご期待ください。
...でも今はあんまり余裕がない,写真整理という名の現実逃避だなぁ。


見聞読考録 2018/11/23

月暈(ツキガサ/ゲツウン)

英名で Moon Halo ともいう。
こないだ,調査に出た夜に見た。



ヘッドライトを頼りに森を彷徨ういつもの夜間調査に,いつもと違う夜空を見た。
コンパクトデジカメではあのスケールの大きさを伝えきれない。大きな大きな月の暈(カサ)が,半月を彩っていた。


暫くの間,地面に寝そべって夜空を眺めた。


見聞読考録 2018/11/22

ウェブサイトの更新

個人ウェブサイトのフォトギャラリーを更新しました。


Bay of Plenty, 2018 - Photo Gallery
https://yutamorii.wordpress.com/bay-of-plenty/


これまで撮った写真はまだまだぜんぜん整理しきれていませんが,とりあえず最近の旅からいくつか。NZ 北島の Bay of Plenty 地方に,採集旅行に行ったときのものです。11月6日のエントリーでも紹介したように,人生で初めて野生のカギムシを採ったのもこのとき。


Bay of Plenty は,北島北部に面する大きな湾のこと。温暖な地方で,自然も豊か。それに Bay of Plenty という響きも良い,直訳すると「豊穣の湾」って格好良すぎでしょ。


次の旅はたぶん,ウェリントン再訪かな。
学会の準備してないけど!


フォトギャラリーの一番下にある「いいね!」を,押してくれても良いです。ちょっと元気が出るので。


見聞読考録 2018/11/19

宿泊施設のキャンセル

予約していた宿泊施設にキャンセルされる,という経験を初めてした。うわぁびっくりした。
今から他の宿を取り直すと,5万円以上も高い宿しか残っていないようだ。うわぁなにこれ。すっごい。


見聞読考録 2018/11/18

Velvet worms!!

NZ・北島の北東部にて,野生のカギムシに出会った。ようやく会えた。野生のは初めて見た。人生のチェックリストをひとつ埋めた気分である。


今日は 100 年以上にも渡って厳重に保護されている森林を案内してもらったのだが,この森ではなんとこれまでにカギムシは見つかっていなかったらしい。奇しくも最初の発見者になってしまった。結局,4 時間以上も時を忘れて夜の森を徘徊し,合計 9 匹のカギムシを発見した。







青く映っているのは,UV ライトを当てて撮影したもの。UV を当てると,夜の森が全く違うものに見え,とても興味深かった。



可視光では地味なリクウズムシもこんなに真っ青に。同じリクウズムシでも種類によって光ったり光らなかったり。


進化生態学的に何か意味があるのかは知らないが,UV ライトを持って夜道を歩く,というのは面白いアイディアかもしれない。いつもと違う知らない世界が見えるかも...?


見分読考録 2018/11/06

ハロウィン

昨日はハロウィンだった。近年日本でも流行ってきているようだが,NZ はさすがにヨーロッパ文化圏。本物のハロウィンを体感してしまった。


ラボから戻り,一息ついた午後6時半。
なんだか可愛らしいオバケの一団がどかどかどかーっとやってきた。


"Trick or treat!!"


うわっ!ホントに来るんだ!


お菓子,用意してないよ!忘れてた!
大慌てでちょっと高級なお菓子を配ってしまった。


さて,今日からまた調査旅行。
持っていくはずだった非常食はオバケに食べられて減ってしまったけれども。


行ってきます〜。


見分読考録 2018/11/01