見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

しろくまあげいん

近くの島,ボートで 30 分くらいのところに,またシロクマが現れたらしい。


まぁそれくらいの距離ならちょいちょい出てるのかもしれないけど,今回はなんと,その島に同じチームの学生さんが二人で上陸していた。


気づいたときにはすでに 70 m くらいしか距離がなかったそうな。写真を撮るどころの騒ぎでもなく,逃げ込める山小屋(島小屋?)とシロクマが同じ方向にあり,乗ってきたボートも二人を置いてすでにどっかに行ってしまっていたという。え,ぜんぜんシャレにならないんですけど。


そんな中,命からがら戻ってきた 2 人は目に見えて憔悴していた。そりゃそうだろうよ。


その昔,1990 年代くらいには,ここニーオルスン基地の周辺で夏にシロクマが見られることなど滅多になかったという。今も滅多にないという点では変わらないようだが,ここ数年,明らかに増えているという。


それはどうやら,シロクマの食性に関係があるようだ,という話を聞いた。地球温暖化の影響で,海まで張り出していた氷河がすっかり溶けてしまって,そのせいで,シロクマがアザラシを捕まえられなくなってしまっているらしい。確かに氷河から落ちた氷がなくなってしまった海では,アザラシの方が圧倒的に有利だろう。


ニーオルスン基地の眼前に広がるフィヨルドでは,1990 代と比較して 3 km も氷河末端が後退してしまったそうだ。実に嘆かわしい。未だに地球温暖化なんか嘘だと言っている奴は,ここに来たら良いと思う。


さて,そうなるとシロクマは当然お腹が減って困ってしまう。結果として,近年シロクマはアザラシではなく,鳥のコロニーを襲って,卵を食べるようになってきているそうだ。それで,シロクマが近年,行動圏を変えてきているという。実に興味深い。


実に興味深い,のは良いのだが,僕らは今,ちょうどその鳥のコロニーを調査しているわけで,遭遇頻度たるやこれまでの比ではなく高くなってしまうはず,というわけだ。


まぁ,それがわかったところで,気をつける,以外にないのだが。


見聞読考録 2017/06/21