見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『うさぎをつくろう』

生まれ落ちて 1 年と 3 ヶ月ほど,日数にして 450 日程度の息子がいるので,次から次へと絵本を買い込んでいる。息子はとても絵本が好きなようで,生後 4~5 ヶ月頃には絵本を読む声にじっと耳を傾けていたし,10 ヶ月頃には自分で丁寧にページをめくっていた。泣いていても絵本の一節を朗読するだけでたいてい泣き止むので,たいへん助かっている。

 

名作揃いと名高いレオ=レオニ氏の著作も数冊購入した。そして今日,新たに届いたのが表題の「うさぎをつくろう - ほんものになったうさぎのはなし」である。

 

「おはよう,きょうは なにを しようか?」

はさみが えんぴつに いった。

「うさぎを つくろうよ」えんぴつが こたえた。

 

...ん?

 

 そこで しごとに とりかかる......えんぴつが うさぎを かいた。

きれいないろの かみきれから はさみが もういっぴき きりぬいた。

 

すぐに にひきの うさぎは とっても なかよし。

 

...なんだって?

 

でも じきに にひきは おなかが ぺこぺこ。

 

...?!

 

(...中略...)

にひきは おなかが ぺこぺこ。

にひきは たべものを そこらじゅう さがした,ページの

そとまで......

 

ページの外まで?!

 

......と とつぜん おおきな あかい にんじんが めのまえに あらわれた。

「この にんじんは ほんものだぞ!」と はさみうさぎ。

「どうして わかる?」と えんぴつうさぎ。

「かげが あるもの!」と はさみうさぎ。

 

「とにかく たべよう」はらぺこの うさぎたちは きめた。

にひきは おいしい にんじんに かぶりつき,たちまち にんじんは

きえうせた,はっぱも なにもかも。

 

「みろよ!」と えんぴつうさぎ。

「みろよ! ぼくらにも かげが できた」

「ぼくらは ほんものだ!」にひきは さけんだ。

 

そうして たのしそうに ぴょんぴょん とんでった。

(...完)

 

...驚かされっぱなしの初見であった。

 

絵で描いた,あるいは紙を切り抜いて作ったウサギは,ウサギなんだから動いて当たり前,動くのだからお腹が減るのは当たり前と言わんばかりに,自然に物語が進行していく。作り物のウサギたちは絵本のページを乗り越え,絵本の中の本物のニンジンを食べることで影を得て本物のウサギになる...。なんという突飛なストーリーだろう,凝り固まった大人の頭脳では理解するだけで必死である。

 

幼子は,子供は,これに何の疑問も抱かずに物語を読むのだろう。柔軟というべきか,素直というべきか...。そしてこれを作り出した,大人であるはずのレオ=レオニ氏には脱帽しかない。どういう発想を持って生きていたのだろうか。これは確かに,紛うことなき名作と言えよう。

 

絵本の面白さに気づかされる今日この頃である。

いっそレオ=レオニ氏の著作を全部揃えようか...。

 

 

見聞読考録 2020/11/07