見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

京都大学山極総長の祝辞

COVID-19 のパンデミックを鑑み,京都大学でもおよそすべての集会が中止されている。特に卒業式や学位授与式,そしておそらくは来る入学式の中止は,当事者にとってさぞかし辛かろう。これを受けて,京都大学総長・山極壽一博士による祝辞が,ウェブ上に公開されることとなった。

 

京都大学令和元年度学位授与者への総長祝辞 山極壽一(京都大学総長)令和02年03月23日
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/ceremony/r01ceremony04

 

京都大学令和元年度卒業者への総長祝辞 山極壽一(京都大学総長)令和02年03月24日
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/ceremony/r01ceremony03

 

これほどの内容を,無料で見聞きできることに感動を禁じえない。時を置いてこの先も何度も視聴することになるだろう。

 

この度の COVID-19 は,世界に破滅的な変化を与えることだろうが,私としては良い変化も多少は期待している。例えば今現在,世界中で行われている移動制限や経済活動の停止によって,人類の排出する CO2 の量は産業革命以降ではほとんどありえないほど激減している。大気や水質の汚染,森林伐採の問題も一時的に解決され,公害によって失われるはずだった多くの命が救われているという試算もある。

 

企業の会議もウェブ上で行われるようになり,ウェブ上を介した会話や交流によって,人々は物流やヒトの移動のコストをかけずに楽しむ術を身につけつつあるように思う。地球温暖化や環境汚染など,将来的には人類の絶滅まで引き起こすだろうと想定された数多の問題が,世界的な経済活動の停止という未曾有の事態によって改善しているという見方もできるのだ。

 

東洋や欧米などで起こっている感染者のオーバーシュートと医療崩壊は,COVID-19 による数多の犠牲者を生み続けており,この波は近く日本を始め多くの国々を混乱に貶めるだろう。この度のパンデミックがどれほどの犠牲者を出すのかは,これからの我々の行動にかかっている。

 

しかし何年かかるかわからない収束の後に,パンデミック以前の日本にただただ舞い戻ってしまうのは,愚かなことだと思うのだ。大学や企業の会議など,全て Skype で自宅から参加すれば良いじゃないか。診察を受けるのだって,病院に足を運ばずとも良いじゃないか。スクリーン越しに初診を行えば,遠方からだって医者の意見を聞くことができるし,医療者が感染症にかかってしまうというリスクを軽減することだってできるはずじゃないか。

 

大量生産・大量消費,薄利多売の時代に終止符を打ち,持続可能で幸福な社会の実現に向けて,誰も過労で死ぬことのない世の中の実現に向けて,自らの生活基盤を改める時に来ているのではないだろうか。

 

 

見聞読考録 2020/03/28