見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『湿地帯中毒 - 身近な魚の自然史研究』

前回の日本生態学会でお会いした際に,著者である中島淳博士にいただいたご高著『湿地帯中毒』をつい先日読み終えた。

 

湿地帯中毒 - 身近な魚の自然史研究

中島 淳(著)

東海大学出版部

 

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第1・2章をカマツカの研究,第3章をドジョウの研究に当て,最終第4章に中島さんの生い立ちを含む自伝が赤裸々に語られる構成になっている。カマツカの章を読み終えた時点で雑務が舞い込んできてしまったため,今月になるまで続きに手をつけられずにいた。なので,カマツカについて書かれた前半二章分の記憶はすでに曖昧だが,もう十分にお腹が膨れるくらいの凄まじい熱量を感じられる内容だったことは印象に残っている。

 

何よりも中島さんの培った膨大な知識に脱帽せざるを得ない。カマツカやドジョウだけでなく,淡水性の魚類全般,それから水生昆虫に関しても,日本全国,いや世界を見渡しても,中島さんほどの実力者はいないのではないかと思えてしまうほどの底知れぬ知識を垣間見れる。中島さんの言葉を借りれば自然環境に「沈む」ように生きている私でさえそうなのだから,一般的な読者は目を白黒させるばかりであろう。専門的な研究内容の書かれた第1〜3章については,一般には細部まで理解されないかもしれない。

 

それだけ専門的な内容に踏み込んだ書籍にも関わらず,それでも読者はいつの間にか,中島さんの軽妙な語り口に引き込まれていくことだろう。随所に散りばめられた,時に衝撃的な,時に信じられないようなエピソードの数々に,少なくとも私は声を上げて笑った。研究者になるべくしてなった中島さんの幼少期について語られた第4章も,変わり者エピソードが満載でたいへん面白い。誰もが心から楽しめる一冊と思う。

 

ちなみに,中島さんの幼少期の姿は,私の幼少期にも少し通ずるところがあり,強い共感を持って第4章を読ませていただいた。私はどうやら "普通" とは違う幼少期を過ごしてきたようなので,このような体験は初めてであった。ピカピカの書籍の合間から,昔懐かしい泥臭い湿地帯の匂いがして,私にとってはたいへん心地よい書籍でもあった。自信を持って万人におすすめしたい。

 

 

見聞読考録 2019/12/16