見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『薫風のトゥーレ』

薫風のトゥーレ
林健太郎(著)


私の友人(友人と呼ぶには恐れ多い大先輩だが),林健太郎博士が書かれた小説である。この本については,以前もこのブログで紹介したことがあった。


書籍紹介,というタイトルの友人自慢 - 見聞読考録,2017/09/04


岩と氷に閉ざされた過酷な自然に息づく,ホッキョクギツネの "ソル" と彼を取り巻く生き物たちの物語である。よく知らぬまま「絵本」などと書いたが,違った。253 頁もある長編小説であった。ファンタジーの色合いが濃いが,作中ではノルウェースバールバル諸島の自然環境を忠実に採用しており,むしろ生き物好きのリアリストにこそオススメしたい一冊である。


我々ヒトを含む生き物同士の関わりも現実に沿って描かれているし,さすがは現役の生態学者の書いた小説だけあって合間に紹介されるスバールバル諸島のうんちくも面白く,とても勉強になる。かといって物語として退屈することもなく,ホッキョクギツネのくせに狩りをしないことを選んだ変わり者の "ソル" を中心に,まるでドキュメンタリー映像のように楽しむことができる。


読み終えてからすっかり時間が経ってしまい,物語の詳細については記憶も曖昧なので,Amazon に書いた書評以上のことは何も書けない。本自体も残念ながら日本に置いてきてしまった。それでも作中に描かれた北極域の情景だけは,今でもありありと思い出す。美しい映像を後に残す,爽やかな作品である。


小中学校の指定図書となるべき作品なのではなかろうか。北極の自然を垣間見たいそこのお方,一冊どうだろうか。生き物好きのお子さんを持て余すそこのお方,一冊どうだろうか。


健太郎さんは私の友人だが,この書評自体は中立に書いたつもりだ。ただし健太郎さんは私の友人なので,このブログのエントリー自体は全く中立ではない。ねぇねぇ買いなよ。とにかく買いなよ。良い本だからさ。


見聞読考録 2018/08/31