見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

物置小屋の掃除

研究室の保有する物置小屋を研究室のメンバー総出で掃除した。ただの掃除のはずなのに,ただの掃除のはずなのに,いつの間にか大変な事態になっていた。壮絶な戦いだった。


まず出てくる物がすごい。いつの時代から使われ続けてるのやら知らないが,アセチレンランプとか何に使うのかわからない機械とか,見たこともないようなレトロな代物が大量に出てきた。まぁでもここまでは楽しかったかな。


ひどかったのが,古い古い生物標本たち。ジップロックで三重四重,時には五重にも密閉されたヤドカリや海産貝類。何千という単位の数だったと思う。
黄色く変色しへばりつくビニールの袋。開封と同時に溢れ出る,吐き気を催すほどの強烈かつ不快な芳香。プラスチックの容器にこべりつく水気を飛ばした魚醤のような濃厚な粘着性の黒褐色の液体(あれは触れただけで指が溶けるに違いない)。なにもかもがおぞましい代物だった。


そのまんま捨てちゃえよと僕は思ったのだが,現場監督者はそれを許さず。ビニール類と可燃ゴミに分けろとのお達し。おかげさまで掃除を始めてから終わるまでにかかった4時間のうち半分以上をサンプルの仕分けに費やすこととなった。それも十人掛かりで。一人でやったら一日じゃ終わらないほどの量だったということだ。発狂してたかもしれない。


しかしどのようにしたらあのような状態になるのだろうか?


一緒にラベルも入っていたところを見ると,あれは研究あるいは収集を目的とした生物標本であることは間違いないだろう。状況から初期状態を推察してみる。


まずジップロックに入っていた標本は乾燥していなかった。ぬれたまま密封したことが伺える。
ビニールの変色は,密封された後で標本から流れ出た液体によるものだろう。すなわち,密封された標本はアルコールやホルマリンによって固定された後だとしてもその固定は十分ではなかったと推察できる。
ビニールの袋を二重三重どころか四重にも五重にもかぶせていたのはなぜだろう。そのようなことをしたら中の物を取り出しにくくなってしまうし,また中に何が入っているのかもわかりにくくなり標本として利用するにあたって非常に不便なことになってしまう。まとめた袋にラベルがあるのなら話は別だがそれはなかった。もしかしたら内容物から溢れ出るあれやこれやを完全に封印することを目的としたものかもしれない。
何より特徴的だったのは,あの万人を瞬時に不快にさせ,やもするとを気絶にまで至らせかねない殺傷力抜群な臭気だ。あれは,腐臭だった。


僕の知る限りまったくもって新しい保存方法である。腐敗標本と名付けたい。


結論。


サンプルの整理はちゃんとしましょう。自分のためにも,後世に犠牲者を出さぬためにも。


見聞読考録 2011/11/22