見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

Clazy Climbing

飯豊連峰は新潟・福島・山形の県境に位置する山地。最高峰・大日岳 2,128 m、主峰・飯豊本山 2,105 m。最高峰と主峰が異なるのは、飯豊本山の近くに飯豊神社があるためか?


東北に来たら行ってみたい山の一つだった。念願叶って足を踏み入れたのはおよそ一週間前。残暑の厳しい 8 月 25・26 日のこと。


標高差 1,700 m を 2 日で往復するとういう暴力的な日程。こんな無茶をしたのは学部4年以来だ。あのときは標高差 1,400 m を 8 時間で往復したせいで、翌日から 3 日間も筋肉痛で動けなくなった。
しかし今回歩いた距離はそのときの比ではない。しかも背中にテントも積んでいる。きついのは当たり前。頭が悪い。


登りに選択した行程は山形県小国町の飯豊山荘から最短で主峰にたどり着くダイクラ尾根を通る道。コースタイム、10 hr 30 min(参考:飯豊山周辺森林生態系保護地域,保全・利用ガイド,置賜森林管理所)。


実に質の悪い道だった。目先に見える目的の峰は自分の目の高さ。すぐそこに見えている。それなのに、地を這う道ははるか下まで一度下ることを強いる。下から見上げる峰は下る前に見た峰とは別物だ。選択の余地のない一本道に、よじ登るような岩場を晒す。息を切らして登っても、見える景色は変わらない。見えるのは隣の峰と間に落ちる容赦のない道。前に進んでいる気がしない。体力よりも精神的にきつかった。
登り始めがかなり遅かったこともあって、山頂にたどり着いたのは日が落ちた後だった。あと 30 分歩いても着かなかったらビバークしたかもしれない。



夕暮れ時の飯豊連峰。飯豊本山山頂付近より撮影。


本山付近に一泊した翌日の行程は、飯豊本山から稜線を周って梶川尾根を下るというもの。飯豊本山→御西岳→烏帽子岳→北股岳→門内岳→梶川尾根→飯豊山荘、とまぁ長い長い。コースタイム、なんと13hr。これがまたひどかった。いやわかっちゃいたんだが。せっかく登った標高差 1,700 m を一日で下る。朝6時に出発して夕方 16 時 30 分に下山するまで、実に 10 時間半、歩きに歩いた。



左奥から最高峰・大日岳。その右手前が御西岳、尾根伝いの中央やや左に烏帽子岳。右に黒くぎざぎざした山稜を晒しているのが初日に歩いたダイクラ尾根の山々。一番右のピークが飯豊本山山頂。中央遠方にうっすらと見える山はどこの子かしら?


計画は最低でも、飯豊連峰そのものは素晴らしかった。溶けることのない雪渓。咲き乱れる花々、飛び交う虫。東北の山らしいたおやかな山稜とそこから顔をのぞかせる雄大な峰々。
人がいない。建物もない。見渡す限り人工的な気配が全くない。山と空と、果てしなく続く一本の道が織り成す現実離れした景色が、ただただ感動的。



道中の小さな高層湿原と烏帽子岳


でもやっぱり、もうちょい草花を虫を愛でる時間がほしかったなぁ。
やっぱり山はゆっくり歩かなきゃね。



ナンブタカネアザミ(たぶん)とクジャクチョウ。こんなに暑くてもちゃんと季節は秋へと移ろっているようだ。


この山登りの話をオランダからの留学生にしてみたところ、目を丸くして You are clazy と一言。
おかしいな。以前、彼と一緒に泉ヶ岳に登ったときは、Mountain Goat と言われたと思ったんだが。


これは・・・昇格だな。
昇格に違いない。


2010/09/01 見聞読考録