見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『垂直の記憶』『ソロ』『凍(とう)』

『垂直の記憶』

山野井泰史・著

 

『ソロ―単独登攀者・山野井泰史

丸山直樹・著

 

『凍(とう)』

沢木耕太郎・著


訳あって山岳関連の書籍に目を通している。

大した訳でもないので,趣味で,と言った方が適切かもしれない。

 

世界の最高峰,登山の歴史を紐解いても指折りのアルパイン・クライマーと呼んで何人も意義を申し立てる者はいないであろう,山野井泰史・妙子夫妻について書かれた書籍を三作読んだ。山野井泰史さんは近年,登山界のアカデミー賞とも言われるピオレドール賞の生涯功労賞をアジア人で初めて受賞しているので,ご存じの方も多いかもしれない。山岳を生業にして知らぬ人はモグリと言われかねないほどの偉人である。同じヒトとは思われぬ生命力・精神力を備えた超人であり,他者を労わり自然を愛する聖人でもある。あるいは,岩と壁に取り憑かれた変人と呼んでも本人も喜ばれるかもしれない。

 

概要としては聞いたことがあり前々から気になっていた数々の偉業と生還のノンフィクションを,山野井泰史さん本人,フリージャーナリスト,ノンフィクション作家による三者三様の視点・筆力による文章から追従させていただいた。自分では決して体験することのできない人生と生死を賭けた極限の世界を垣間見た。安全な機内で読み解くこちらの身にも生命の危機を感じるような,壮絶で壮観で壮大な内容であった。 極寒に凍え,重症に耐え,緊張に汗を握る登擧の中に,二度ない人生を生きる指針が示されているような気がした。

 

山野井夫妻のように自由に生きてみたい(生命を賭けた登山をやるつもりはないが...)。

多くのヒトがそうやって生きられる世の中になればいい。そう思った。

 

三冊とも,多くの人々が知らない生死を賭けた冒険の世界を,安全な場所に居ながらありありと感じさせてくれる良書であった。個人的には丸山直樹氏の書籍はあまり好まないが,それでも是非,おすすめしたい。

 

見聞読考録 2022/06/19