見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

ブラックホールの内部を記述?

面白そうなプレスリリースが,理化学研究所より公表されていた。

 

蒸発するブラックホールの内部を理論的に記述 - ブラックホールは未来の大容量情報ストレージ?

Original Article: Kawai H and Yokokura Y, 2020. "Black Hole as a Quantum Field Configuration", Universe, 10.3390/universe6060077

 

膨大な質量を持ち,無尽蔵に物質を吸い込み続けるかに思えたブラックホールからも,量子効果によって粒子が逃げ出しうることを理論的に示したのは,スティーブン・ホーキング博士だった。ホーキング輻射と呼ばれる事象の地平で起こるこの現象によって,ブラックホールには寿命があり,最後は蒸発してなくなることが予測された。

 

さて,量子力学では,物質の持つ全ての情報は次の挙動に影響し,情報は完全に保存されるという前提がある。しかし,ブラックホール特異点では情報は喪失され,量子力学の前提が崩れてしまうのではないか。いやいや,ブラックホールの中でも確かに情報は保存されているはずだ。あーだ,こーだ。と,いうような議論が今,物理学の世界では盛んに議論されている(合ってるかなぁ?)。

 

さて,ブラックホールの情報パラドクスは,ホーキング博士が投げかけた問いと言って良い。後世に残る巨大な問いを,人類で初めて問いかけるということは,その問いを解くことよりも遥かに難しいに違いない。ホーキング博士の偉大さが垣間見える。

 

ホーキング輻射を提唱した際に,ホーキング博士が行った計算では,ブラックホールの内部では量子の情報は破壊されると結論づけられた。今日まで続く論争の幕開けであった。

 

世界中の研究者による大論争の末,現在ではブラックホールの内部でも情報は保存されているはずと多くの物理学者が信じている。ただ,どのように保存されているのかがわからない。無限の重力の中で,量子はどのように情報の喪失を免れているのか。現代の量子力学が挑む最大の難問であった。

 

今回,理研から発表された論文では,この問題をついに解決しているように見える。論文の内容が正しいのかどうか,そもそもここまで書き記した僕の理解が正しいのかどうか,本当のところはさっぱりわからないが,素晴らしい成果と僕の目には映った。

 

さぁ,これからどうなるだろうか。物理学界の反応を楽しみに待ちたい。

 

 

見聞読考録 2020/07/09