見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

新型コロナウィルスの脅威と驚異

現在世界的に猛威を奮っている新型コロナウィルスの俗称で呼ばれるウィルス。正式名称を SARS-CoV-2,それによる感染症を COVID-19(coronavirus disease 2019)というそうだ。

 

初期対応を誤った日本にも早々に上陸し,あらゆる集会や祭り,卒業式などのイベントの中止,ディズニーランドなどの興行施設の休館,果ては小中学校そのものの休校に至るまで,想像だにしなかった激烈な影響を現代社会に及ぼしている。

 

特に経済的な損失は甚大である。中国やイタリアを中心にパンデミックの中心地となった国々はもはや経済活動どころの騒ぎではない。工場も商店も閉鎖され,飲食店すら営業停止の命令が出ている国も多い。航空会社は国際便の運行を欠航し,不要不急の外出には罰則もつけられるほどとなった。トイレットペーパーやマスクを買い込んだ人々が家に引きこもるという現象が,多くの国々で見られている。休業を余儀なくされ破綻する企業や個人事業者も相次いでいるそうだ。本当にたいへんな事態である。

 

80%ほどの人々にとって,COVID-19 はほとんど風邪と症状が変わらないそうだ。しかし厄介なことに,少なくない人々を重篤な肺炎に陥れ,その数%を確実に死に至らしめる。感染力も高そうだ。空気感染のために感染力の高い疾患として名高い麻疹や百日咳(基本再生算数 12~18 ほど)とは比べられないが,インフルエンザと同等の感染力を誇るようだ(基本再生算数 2~3 ほど)。SARS や未知の病原菌に晒されたとき,動物の持つ免疫システムとはこれほどまでに脆弱であったかと,改めて知らしめられるようだ。

 

つい先月まで NZ に住んでいた身としては,未だ世界的パンデミックの渦中にない NZ を羨ましく思う反面,国際便の長期欠航を決めた New Zealand Air の決定に,先月のうちに戻ってきておいて良かったと冷や汗をかいたりもした。危うく帰国の機会を逃すところであった。この世界同時的な鎖国を誰が予測しただろうか。昨年の今頃には,ヒトの及ぼす環境破壊とエネルギーの過剰使用を嘆きながらも,私も飛行機に乗って日本へ出張に来ていた。あの頃の平和な日常の中で,今の終末的な世界を予測したヒトは少なかろう。

 

一方で,予期せぬデータも出ている。SARS-CoV-2 の脅威が,中国の排出する CO2 量を激減させているというのだ。同様に大気汚染物質の排出量が大幅に軽減されたことにより,ニュースサイトの文章を引用すると「5 歳未満の子ども 1400 名から 4000 名と 70 歳以上の高齢者 5 万 1700 名から 7 万 3000 名の生命が救われたと推定されている」という。現在まで確認されている COVID-19 による死者数など遠く及ばない驚異的な数字である。

 

新型コロナウィルスによる経済活動制限が,大気汚染を改善し多くの生命を救ったとの推定 - Newsweek

さてそうなると,人類の尊ぶ経済活動とは何であったのだろうか。かけがえのない地球を破壊し,数え切れないほどの人命を犠牲にしてまで強行してきた便利さの追求は,本当に人類を幸せに導くのだろうか。

 

資本主義に則った生活基盤そのものから考え直す時に来ているのではないか。私はそう思っている。

 

 

見聞読考録 2020/03/19