見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

隣国・オーストラリア

オーストラリアのことを調べていたら,なにやらタイムリーな話題に行き当たった。

 

なんと,エアーズ・ロックことウルルの登山が禁止となるそうだ。それもあと二日で!

www.huffingtonpost.jp

知らなかった。ちょっと登ってみたかったが...。

 

理由は原住民であるアボリジニの聖地であるからだという。それを足蹴にするなどやはり許されない,とそういうことだろう。前々から議論があったことは耳にしていた。原住民が嫌がるのなら,仕方がないだろう。

 

というか,あれほどの世界的な観光地で,原住民の文化を引き合いに登山禁止を決めたのはすごい。ただのお遊び登山より,独自の風土が培ったオリジナリティ溢れる文化そのものに価値があるという判断は理に適っているし,何より人道的である。先進国としてのオーストラリアを垣間見るようだ。

 

日本の先住民と言えば,真っ先にアイヌ民族が思い浮かぶ。アイヌ独自の文化も,自然に寄り添った奥深く素晴らしいものであるが,日本政府は彼らに何をしただろう。アボリジニの聖地であるウルルが彼らの意思の下に戻ったのに対し,アイヌの聖地である平取町の二風谷はあろうことか 1997 年にダムの建設で沈められている。今からでもダムを撤去するべきだろうが,ダム湖の底に沈められた聖地が元の姿を得ることは二度とないだろう。もし今も,二風谷がただのダム湖ではなく,アイヌの文化を受け継ぐ聖地で有り続けていたならが,今頃は世界中から人の訪れるものすごい観光地となっていることだろう。アイヌの人々は未だに,迫害にあっていると聞くし,こんな馬鹿げた話はない。いや,先進国の仲間入りを気取った後進国・日本ならよくある話だろうか。

 

二風谷ダムのできた 1990 年代ならいざ知らず,巨大ダムや原子力発電などの大型施設はもはや過去の負の遺物となりつつあるし,無為にプラスチックを消費することもためらわれる時代になった。今やヨーロッパでは,飛行機を飛ばすエネルギー効率の悪さを懸念し,ビジネスや観光に飛行機ではなく鉄道を使うことが推奨されるようになってきているほどである。日本にその風潮が伝わるのは,果たして何年後,いや何十年後のことだろうか。

 

先進的かどうか,というものは時代によって変わる。現状に甘んじ,悪しきを放任し,改善を諦めた時点で,先進的ではありえない。1970 年代の高度経済成長期を経て,日本は裕福になったかもしれないが,日本が先進的であると誇れるのは科学/技術面だけであろう。それすらも今や怪しい。人々の精神性や政府の立ち位置などの内面はまだまだお子ちゃま,それどころか,幼い頃からいろいろと甘やかされわがままに育ってしまい自分の駄目さを棚に上げて人の足ばっかり引っ張っている大馬鹿野郎みたいな国になりつつある。

 

今はただ一人でも多く,現状を正しく把握できる人々が増えることを願う。

 

 

見聞読考録 2019/10/24