見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

「なんかやばそう」と,思ったのだが。

11月24日の記事「暴発」の続き。


どうでもいいことだが,透明のジップロックに入った「なんかやばそう」な白い粉が例えマリファナだったとしても,ここオランダでは合法だった。なので,何も恐れることはない。すっかり忘れていた。


残念ながら(?),ここフローニンゲンは健全すぎて,どこに売っているのかもわからないが,例えばアムステルダムなどではそこらじゅうで大麻の香りがする。なんとも甘ったるい,強烈な匂いだ。それと教えられれば,誰でもすぐにわかるはずだ。


アムステルダム名物「飾り窓」を歩けばなおのこと,それこそ顔をしかめるほど濃密な香りが充満している。夜になると大麻を吸ってすっかりふやけてしまった,真っ赤な顔の虚ろな目をした若者たちを階段やレンガ造りの建物の壁に見ることができるだろう。側ではもちろん,赤い光に照らされた下着姿や上半身裸の女性たちが豊満な体を揺らして踊り,道行く男性を人差し指で手招いている。時に独り者の男が,招かれるままに赤い部屋に消えてゆく。驚くべきは,そんな光景を背後に,石畳にテーブルを出したレストランでおじさん・おばさんたちが大声で笑いながらビールを煽り,さらにはそれらを若い男女のカップルが手をつないで眺めていたりすることだ。まさに,カオス。何も知らず「飾り窓地区」の只中にホテルを取ってしまった僕に至っては,引きつった笑みを浮かべ,冷や汗を流しながら,足早に通り過ぎるほかなかった。やたら安いと思ったら,そういうことだったのか。日本人の多くは「自由の国」と言えばアメリカを浮かべるかもしれないが,「自由の国」の筆頭とすべきはオランダだろう。それはもう凄まじい,未知の世界が広がっている。


そのくせ,危険な香りがしないのが,アムステルダムの凄いところである。命の危険を全く感じない。どう見ても東京の方が遥かに危険だ。間違って取ってしまった歌舞伎町一丁目にあるホテルの周辺で,日本語の達者な黒服の外人さんに付きまとわれたりしない。道に迷って踏み込んだ新宿の裏路地で,ほとんど裸のお姉さん2人に両脇から抱きつかれて,屈強なガードマンが脇に立つ地下へ通ずる薄暗い穴に引きずり込まれそうになったりしない。アムステルダムは,健全にイカれているのだ。なまじ違法でないだけに,マフィアなど違法組織の出る幕がない,ということなのかもしれない。それに,社会に不満を抱えている人も少ないのだろう,酒や薬に溺れる人も少ないようだ。


僕が街を観光するとき,街に求める要素は3つある。第一に,安全であること。スリや置き引き,ぼったくりは最悪しょうがないとしても,命の危険があるのは避けたい。次に,オリジナリティがあること。世界中どこにでもあるようなマ○ドナルドやらK○Cやら,そういうのばかりではつまらない。歴史があり,それを大切にしている街は,この点,間違いない。そして最後に,多様であること,複雑であること。これは必須ではないが,多少わけがわからないくらいの方が,街に深みが出る。何度も足を運びたいと思うようになる。


その3つの要素を考えたとき,アムステルダムは極めて優秀な街と言える。ゴッホ博物館やオペラハウスがあるかと思えば,美しい教会や広場に聳えるオベリスクのような歴史的建造物が立ち並ぶ。郊外には立派な大学があり,交差する運河が描く独特の風景があり,終いには大規模な歓楽街がある。それでいてそれらが見苦しくなく,融け合わさっている。もうわけがわからない。それくらいわけのわからない方が,街は面白くなる。飽きることのない奥深さを感じられる。


ちなみに同じ観点から見た時にヨーロッパで一番おすすめなのは,チェコ共和国プラハ。ドイツのベルリン,イタリアのローマやヴェネチアも捨てがたい。北アフリカ・モロッコエッサウィラも素晴らしかった。日本で言えば,京都だろう。


僕は基本的に街より自然の中を歩く方が好きだが,アムステルダムは世界中の数ある街の中では指折りの刺激的なところだと思う。興味のある方には,是非,おすすめしたい。


見聞読考録 2017/11/27