見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

多様性とは何か

今年度,研究費を助成してくれていたとある財団から,簡単な文章の執筆を依頼された.それを書き上げたあとの残りカスをここに貼っておく.

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Ph. D とは、Doctor of Philosophe の略であり、博士号の称号を指す。すなわち「哲学博士」と訳して差し支えないだろう。この言葉は、科学を志す者がいずれ必ず何らかの哲学的な問いに辿り着くことから名付けられたのだと思う。

私はこれまで、様々な野生生物と関わってきた。幼少期にはあらゆる昆虫を採り漁り、趣味として植物をたしなみ、現在はカタツムリを主な対象として研究を行っている。多種多様な野生生物を目の当たりにしてきた私が、生物多様性の諸事に興味を持ったのは、今思えば必然だったのかもしれない。そんな私が最初に辿り着いた哲学的な問いは、多様性とは何か、というものだった。何か、と問うている時点で、科学の問いではない。いわば、多様性の本質を知りたかったのである。

多様性とは可能性のことだ。これが、私の得た答えの一つである。多様性が高い、すなわち均質ではないものがよりたくさん寄り集まっていればいるほど、新しいものが生じやすいということである。これは私たちの社会にもよくあてはまる。革新的な発想は、自由で多様な人々から生まれやすい。それ故、多様性を高め、維持することは概して有益なことであると私は考えている。しかし現実問題として、これをなすことは非常に困難なことである。決して、自分の意見を他者に押し付けてはいけない。他者の意見を敬う寛容さがなくてもいけない。少数派を擁護する仕組みがなければ維持され得ないのだ。

多様性とは、いったいどのようにして生み出され、保持されるものなのだろうか。私は、多様な生物を通して、この普遍的な問いにこれからも挑戦し続けたいと思っている。

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案外時間を食ってしまった.
ああ,学会の準備をしなくては.


見聞読考録 2015/03/08