見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『旭山動物園のつくり方』

旭山動物園のつくり方
原子禅(著)


旭山動物園の華々しい成功とその裏に秘められた努力と苦悩の物語。そのへんに置いてあったので読んでみた。どうすれば人が動くか、どうすれば世界を変えられるか、そのヒントが秘められているように思う。


2012年度の年間来館者数160万人超。日本一の人気を誇る有名動物園だが、ここまでの道のりは平坦ではなかったという。
1994年、エキノコックス症が園内の動物に発症。一時閉館を余儀なくされる。翌年再開するも来館者はそれまでの最盛期の半分にも満たない、28万人に留まった。旭川市議会では旭山動物園不要論も持ち上がったらしい。
旭山動物園の今の姿は、いったいどうやって形づくられたのか。


"やっていることは以前からまったく変えていないし、これからも変わらない" -p4
日本一の来園者数は、長年の取り組みの結果だということだ。


背景にあるのは、"失敗を怖れない" ということ。"怖くても挑戦を止めない" ということ。飼育する動物を基準に設計されたが故にあまりに奇抜で、業者がついにはさじを投げるような建物を、「園が全ての責任を取るから」と言って、作らせてしまうこともあるというからすごい。公営の施設なのに、である。挑戦することに対して、全員が積極的でなければできない離れ業だ。形骸化した仕組みに疑問を投げかけ、自由な発想を尊重する素晴らしいやり方だ。研究やビジネスの世界にも通ずるものがある。


例えば、日本人がノーベル賞を受賞すると、日本中がお祭り騒ぎになる。すごいすごい、と囃し立てる。来園者数が多い、工夫を凝らした新施設が良い、と囃し立てられる旭山動物園の状況によく似ている。
でも、考察するべきはそこではないだろう。なぜ来園者数が増えたのか、なぜ新施設に工夫を凝らすことができたのか、という背景こそ、考えるべきことなのではなかろうか。ノーベル賞の受賞者の苦労話も聞く価値はあるけれども、そういう人間が成長した過程、つまり受賞したときから遡ること数十年前の研究環境や、その発想力の原点といった背景こそ、考えるべきことだと思う。世間ではそれが不足している気がする。


そこを考えることなしに、第二の旭山動物園は生まれないし、次代のノーベル賞学者は育たない。目の前の数字に惑わされず、本質を見抜く能力が求められる。


ただ、最後の旭山動物園の園長だか誰だかの対話記録みたいなの(p119~)は、ちょっと怪しい感じがした。ので、まともに読んでない。


見聞読考録 2013/06/19