見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

線香花火の科学

故・寺田寅彦(博士)について調べていた。日本を代表する戦前の物理学者のひとりであり,随筆家でもあった,多才な偉人である。

 

線香花火の面白さを盛んに吹聴していた人物でもあった。線香花火のような身近な存在にも物理学的・化学的な面白さを見出し,他者とは違う視座を持っていた。線香花火がパチパチと何段にも爆ぜる様子を寺田博士は松葉火花と呼んだが,それがどのようなメカニズムで生じるのかという未解明の問題に興味を持たれたようだった。

 

身近なものにも科学を見出す,というのは僕には大いに納得できる。現代では科学によって世界中の不思議が解き明かされてしまったかに思われているようだが,科学が解き明かした謎の先には新たなる謎が姿を現すだけである。見方を変えれば今でも世界は未解明の課題で溢れている。

 

飛んで 2017 年,井上智博(博士)らによって線香花火の生成メカニズムがついに解き明かされることになる。10 万枚 / 秒の撮影を可能にする超高速カメラを用いることで肉眼では捉えられない現象を理解することができたそうだ。井上博士ご本人による解説を発見したので,ここに貼っておきたい。メモとして。

 

井上智博 - 線香花火の科学 episode 1~7
https://fireworks-lab.com/author/inoue/

 

Chihiro Inoue et al, 2017. Direct Self-Sustained Fragmentation Cascade of Reactive Droplets. Phys. Rev. Lett. 118, 074502.
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.118.074502

 

 

見聞読考録 2020/08/20

終戦の日

8 月 15 日は,日本の終戦記念日である。負戦に先立ち 8 月 6 日には広島に,9 日には長崎に原爆が投下されている。

 

雲一つない広島に、原爆は落とされた。1945年8月6日はこんな日だった - HUFFPOST
https://www.huffingtonpost.jp/2015/08/04/news-august-6_n_7930770.html?ncid=other_huffpostre_pqylmel2bk8&utm_campaign=related_articles

 

長崎に原爆が投下された1945年8月9日は、こんな日だった。写真や記録を振り返る - HUFFPOST
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5f2cc66cc5b6b9cff7ef7035?utm_medium=popin_rec_desktop

 

太平洋戦争に日本が敗戦して今年で 70 年,つい最近のことである。子供の頃から聞かされ続けてきた身としては,痛ましい思いはあれ,日本とはそういう国くらいの認識でいたが,年を取って世界を知るにつけこれら一連の出来事が歴史的に見ても類を見ない凄惨なものと気付かされた。本当にただ事ではない。小学生の頃には,楽しい夏休みの最中に唐突に重苦しい記念日を押し付けられ,ちょっと迷惑,くらいにしか思わなかったものだが,今の私にとっては 8 月のこの時期は極めて重い。悲しみと苦しみから来るその重みを年々増しているようだ。

 

軍国主義に走った日本の過ちを二度と繰り返してはならない。そんなきな臭い話は今の時代には無縁,と言い切れるような世界に残念ながら我々は生きていない。そのことを皆が毎年欠かさず認識することこそ,犠牲者に報いることではないだろうか。

 

原爆の被災者,および戦死者の方々へ,黙祷を捧げる。

 

 

見聞読孝録 2020/08/15

保護区のあれこれ

公益財団法人「日本野鳥の会」が,鳥類における重要保全地域を独自に選定しているらしい。それが結果として,日本の各地域における保護区の種類と範囲を,見やすくまとめる役割を果たしている。
https://www.wbsj.org/activity/conservation/habitat-conservation/iba/

 

とても役に立ちそうなので,ここに書き留めておきたい。

 

 

見聞読考録 2020/08/05

ブラックホールの内部を記述?

面白そうなプレスリリースが,理化学研究所より公表されていた。

 

蒸発するブラックホールの内部を理論的に記述 - ブラックホールは未来の大容量情報ストレージ?

Original Article: Kawai H and Yokokura Y, 2020. "Black Hole as a Quantum Field Configuration", Universe, 10.3390/universe6060077

 

膨大な質量を持ち,無尽蔵に物質を吸い込み続けるかに思えたブラックホールからも,量子効果によって粒子が逃げ出しうることを理論的に示したのは,スティーブン・ホーキング博士だった。ホーキング輻射と呼ばれる事象の地平で起こるこの現象によって,ブラックホールには寿命があり,最後は蒸発してなくなることが予測された。

 

さて,量子力学では,物質の持つ全ての情報は次の挙動に影響し,情報は完全に保存されるという前提がある。しかし,ブラックホール特異点では情報は喪失され,量子力学の前提が崩れてしまうのではないか。いやいや,ブラックホールの中でも確かに情報は保存されているはずだ。あーだ,こーだ。と,いうような議論が今,物理学の世界では盛んに議論されている(合ってるかなぁ?)。

 

さて,ブラックホールの情報パラドクスは,ホーキング博士が投げかけた問いと言って良い。後世に残る巨大な問いを,人類で初めて問いかけるということは,その問いを解くことよりも遥かに難しいに違いない。ホーキング博士の偉大さが垣間見える。

 

ホーキング輻射を提唱した際に,ホーキング博士が行った計算では,ブラックホールの内部では量子の情報は破壊されると結論づけられた。今日まで続く論争の幕開けであった。

 

世界中の研究者による大論争の末,現在ではブラックホールの内部でも情報は保存されているはずと多くの物理学者が信じている。ただ,どのように保存されているのかがわからない。無限の重力の中で,量子はどのように情報の喪失を免れているのか。現代の量子力学が挑む最大の難問であった。

 

今回,理研から発表された論文では,この問題をついに解決しているように見える。論文の内容が正しいのかどうか,そもそもここまで書き記した僕の理解が正しいのかどうか,本当のところはさっぱりわからないが,素晴らしい成果と僕の目には映った。

 

さぁ,これからどうなるだろうか。物理学界の反応を楽しみに待ちたい。

 

 

見聞読考録 2020/07/09

日本人間行動進化学会の声明文

最近騒がれている自民党による科学の誤謬に対する指摘と抗議を,日本人間行動進化学会が表明した。素晴らしい声明文と思う。一読の価値がある。

 

ダーウィンの進化論」に関して流布する言説についての声明
https://www.hbesj.org/wp/wp-content/uploads/2020/06/HBES-J_announcement_20200627.pdf

 

それにしても,2020 年にもなって一国の与党がこれほど愚かな誤りを犯すとは,嘆かわしい限り。

 

 

見聞読考録 2020/06/29

梅雨入り

京都は昨日より梅雨入りしたらしい。

 

梅雨だってよ!梅雨!

仙台にいたとき以来なので,かれこれ6年ぶりとなるだろうか。。

 

仙台の梅雨はひどく寒くて,長い時には8月中旬まで続き,梅雨明け宣言なしという年も経験したほどだったので,一言に梅雨と言えど全国的にはかなり特殊だったように思う。

 

そう思うと,じめじめとして暑苦しい蒸し風呂のような梅雨は,高校生活までを過ごした千葉以来,ということは実に15年ぶりということになるのか!

 

なんだか楽しくなってきた!不快だけど!

 

 

見聞読考録 2020/06/11

子供の思考回路

地球が丸いのはなぜだろう,と子供が問うた。

 

たくさんの隕石がぶつかって,角が削れたんじゃないか,と言う。

 

でも,隕石がぶつかったらクレーターができて,もっとボコボコになっちゃうでしょ?

 

それなのにどうやって,地球を丸くしたの?

 

...それなら,隕石のせいで地球が丸いという予想が,間違っているということじゃない? と,私は一言だけ答えた。

 

子供はじっと黙った。

 

高校数学で習った背理法,などと難しい言葉で考えなくとも,物事の論理に触れる機会は幼い頃からあるものだ。氾濫する情報に頼らず目を瞑ってじっくり考えると良い。

 

答えはまだ伝えていない。

 

 

見聞読考録 2020/06/04

マングースと沖縄の歴史

youtu.be

 

マングースと沖縄の歴史【外来種を紙芝居で語る】環境省
https://youtu.be/V0IorVZ1t7E

 

外来種問題について,かつ専門的な内容を踏まえつつ,一般の目線で語られている。わかりやすく,人々を引き込むものがある。

 

こういうものを初等教育にもっと活かせば良いのに,と常々思っている。

 

 

見聞読考録 2020/06/03

あなたの知らない○○ワールド

あなたの知らない○○ワールド
第7回 ウオノエの世界 ~カワイイ顔して,魚に寄生する甲殻類
https://buna.info/runningstory/2861/?fbclid=IwAR0jjCumL1162JZBIHTkFy-VqgWCI4z6HBNafnGgJxmeAorupxa94KjTwzg

 

友人,って言って良いのかな。知り合い,って言った方が良いのかな。私としては友人と呼びたい間柄の研究者がウオノエの世界に誘ってくれました。

 

万人に読みやすい,クスッと面白い文章ですので,興味のある方は是非。

 

この BUNA(Bunichi Nature Web Magazine)は,地味で真面目な研究にも焦点を当てており,大変素晴らしい。体裁も美しいし,写真にもこだわりが垣間見える。時間を見つけてできるだけ読んでみることにしよう。

 

 

見聞読考録 2020/06/02

コロナ禍の景色 - 雲ノ平山荘

kumonodaira.com

特集:登山自粛論 - 雲ノ平山荘

 

理知的で,示唆に富んだ文章に,思わず唸ってしまった。言葉の運びも美しい。

斜めに読んだので,後でまたじっくり読み直そう。

 

 

見聞読考録 - 2020/05/24