見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

『湿地帯中毒』

中島淳博士の書かれた自伝「湿地帯中毒」をいただいた。前々から読みたい読みたいと思っていた本だったので,嬉しい限りである。しかもサイン入りでいただけるとは思いもよらなかった。僕は購入するつもりで声をかけたのに,ささっと送っていただけるとは,なんてデキた人なんだろう。かっこいい。ああいう大人に僕もなりたい。結局なんだかおねだりしたみたいになって,ごめんなさい。

 

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先日の生態学会の一般講演会で初めてお会いし,演者として一緒に登壇した。お話も面白く,会場の笑いを爽やかに攫っていく姿が印象的であった。

  

古くは「くろむし屋」という黒魔術的なウェブサイトを運営されていた「湿地帯の貴公子」こと「おいかわ丸」さんとしても,有名な方である。今回は十分に話す時間がなかったが,物腰の柔らかさと爽やかな笑顔の裏に危険な香りを漂わせ,ちょうど「くろむし屋」のウェブサイトのように,只者ではない雰囲気を醸し出していたように思う。

  

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↑「おいかわ丸のくろむし屋」のウェブサイト

http://kuromushiya.com/

  

ぱらぱらとめくっただけで,マニアックな湿地性生物がこれでもかと登場しており,これまた「くろむし屋」の雰囲気が漂う。何より仕事量が凄まじい。手に取っただけで迫力の伝わる力作であるのがわかる。読むのが非常に楽しみである。

  

これはアタリの匂いがする。読む前に言っても説得力がないとは思うが,生き物が好きな方なら一冊手元に置いておいて損はないと思う。是非,ご一考されたし。

  

中島さん,どうもありがとうございました。大切に読ませていただきます。

 

中島淳のページ
http://kuromushiya.com/koushiki/top.html

 

見聞読考録 2019/03/29

一時帰国

学会やら何やらのため,帰国している。今日はこれから,静岡に発つ。

15:00 から一般向けの講演を行う予定。

  

日付|03月24日15:00- 一般向け講演

題名|或るカタツムリ研究者の冒険奇譚

場所|静岡県立ふじのくに地球環境史ミュージアム

 

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お時間の或る方はお越しください。

  

見聞読考録 2019/03/24

友人のブログ

友人が書くブログ「ECOSTATS」が面白い。有名な学術雑誌に自身の論文を載せ,学会の大賞を受賞し,若くして才能を開花させている努力の人。自慢の友人である。

  

多少小難しいところもあるが,少なくとも科学界隈の住人には面白く読んでもらえるだろう。久々に開いてみたら,良い記事が増えていたので,覚え書きとともにご紹介。

  

とにかくいろいろとすごい。そしていろいろとおめでとう。見習うところの多い友人である。

  

見聞読考録 2019/03/23

33 歳,じゃなかった。

今月 13 日で 33 歳になったのだと思っていたのに,実際は 32 歳になったばかりだと気づいて心底驚いた私です。なんだか得した気分です。皆さま,お祝いのコメントをありがとうございました。


今後とも末永くどうぞよろしくお願いします。3 月に神戸にいらっしゃる方,ぜひお会いしましょう!飲みましょう!

 

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写真:NZ の原生林にて,調査風景。

 

見聞読考録 2019/02/18

ボディボードに関する考察

日本から来てくれた友人と,NZ 北島のコロマンデル半島に行ってきた。NZ 最大の都市・オークランドから東に直線距離にして 100 km,陸路で 200 km,車で 3 時間ほどの距離にある山がちな半島である。オークランドっ子がバカンスにと集まる,温暖な土地だ。

 

Cathedral Cove や Hot Water Beach などの有名どころは,さすがに人が多かった。Hot Water Beach では,砂浜を掘ると温水が湧き出すということになっているのだが,ホットスポットにはものすごい数の人が密集しており,一瞬にしてやる気が失せ,すぐに海に泳ぎに行った。観光業は,人が集まらないと成り立たない。しかし人が集まると,往々にして観光地の質が下がる。ジレンマと言えよう。その点,Cathedoral Cove は車では行けないようにしてあり,環境が破壊されるのを上手に防いでいるようだ。さすがは観光と保全の分野で世界の最先端を行く先進国 NZ。とはいえ本当に良いところは,そっとしておきたいものだと思う休暇であった。

 

さて,コロマンデル半島で過ごした三日間は,総じてよく晴れていた。南半球特有の強烈な日差しが肌に痛い。そして,風が強かった。おかげで,波が高かった。それはもう,とんでもなく高かった。掲示板に表示された波高の欄には「> ? m」とある。とにかく恐ろしく高いということだけはわかった。ライフセーバーの方々が,それはもう厳しい表情で荒れ狂う波を睨み,そんなことはおかまいなく,レジャーを楽しむ人々は遠浅の海に飛び込んで行った。

 

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友人がサーファーだということで,私もボディボードなるものに挑戦した。水面下を流れる寄せ波と引き波の波長はあまりに長く,強烈な引き波に耐える時間はいつまでも終わらないかのような錯覚さえ覚えた。そしてその上をさらに波が打ち寄せるという二重の構造になっているようだった。寄せ波の上を波が渡るときには,波はただ順番に一列になって寄せるだけだが,引き波の上を寄せるときには,後続の波が前の波を捉え,ひときわ大きな波に変わることがある。その波が狙い目だ。特に足元を流れる引き波が寄せ波に変わる頃,表面に見える波がいくつも重なり,波を追いかけ泳ぐ身体を後押ししてくれる。あとは浜辺まで身を預けるだけでいい。そんなことを幼少の頃によく,浮き輪を使って波に乗りながら考えていたのを久方ぶりに思い出した。ああ懐かしき九十九里浜。ああ思い出の勿来海岸。私は太平洋で育ったのだなぁ。

 

誰かに連れられなければきっとやることはないであろうオシャレなレジャーに誘ってくれた友人に心からの感謝を。波に乗り波を追い越して水面を疾走する感覚はやはり楽しいものであった。いやぁ楽しかった。

 

見聞読考録 2019/02/18

NZ の植物を調べるには

NZ 南島・最南端の街,インバカーギルに来ている。明日からまた調査が始まる。
今回の調査では樹冠を占める樹木の種類も記録しているのだが,北島との樹種のあまりの違いに戸惑いを隠せない。葉っぱを採ってきては,ひぃひぃ言いながら調べている。


そんな中,見つけたのが,下記のサイト。
分布域も調べられるので,とっても便利。


New Zealand Plant Conservation Network
http://www.nzpcn.org.nz/default.aspx


しばらくお世話になるであろうこのサイトをすぐに見つけられるように。
メモメモ。


見聞読考録 2019/01/21

【2018年】研究コラム閲覧数ランキング Top 10

academist Journal というウェブマガジンに昨年 2018 年に掲載された研究コラムの中から,閲覧数が多かった記事の Top 10 が公開され,私たち「外来ナメクジに挑む市民と学者の会」の成果のひとつである外来ナメクジの市民科学の記事が1位に輝いた。たいへん喜ばしく,ありがたい。


【2018年】研究コラム閲覧数ランキング Top 10 - academist Journal


皆さんいつも,ありがとうございます。今年も楽しくやりましょう。


見聞読考録 2019/01/02

Happy New Year 2019!!

NZ は Palmerston North の中心地 "Square" にて,カウントダウンのイベントに参加してきた。プロ歌手らの生演奏を聞きながら年明けを待ち,10 カウントののちに花火と共に新年を迎えるという海外のものとしては非常にオーソドックスなやつだ。思い返せばこれほどベタな年明けを過ごしたのは初めてかもしれない。


日本よりも4時間も早い,世界的にも相当早い年明けとなった。皆さん,2019 年もどうぞよろしくお願いいたします。


見聞読考録 2019/01/01

天敵が生き物の多様化を促すのか?

久々に academist Journal を覗いてみたら,二年前に投稿した殻振りカタツムリの記事がランキングの1位に返り咲いていた。これはいったいどうしたことか。



実はこれと同じ内容の文章執筆を頼まれているのだが,academist Journal に寄稿した記事は自分で言うのもなんだがそこそこ良く書けているように見える。似たような内容の文章を新たに書くとしたらどういう工夫を加えたら良いだろう,ううむ,悩ましい。方針が固まらない。おかげで執筆は遅々として進まない。これはいったいどうしたことか。


ううむ...。
ううむ...。


見聞読考録 2018/12/30

パウア狩りな年末

今年も残すところ5日となった昨日,念願のパウア狩りに挑んだ。ここ NZ の漁業制度は日本とは大きく異なり,ルールを守りさえすれば,パウアを採ってもウニを採っても問題にはならない。水産業に頼らないお国柄だろうか,それとも人口が少ないからこそなせる業か。いずれにせよ,僕のようにこれを魅力的と思う人は多いだろう。


まず重要なルールとして,NZ 政府の専門機関 DOC(Department of Conservation)の定める保護区域内では,いかなる生き物の採集も禁止されている。この範囲が非常に広く,しかも上手に設定されており,無闇に漁をできないようになっているようだ。例えば,自然環境は豊かだが簡単には辿り着けないような地域ではなく,誰もが簡単に漁に入れるようなお手軽な地域をあえて保護区に設定することで,漁のハードルを上げているように見える。昨日訪れた場所も,車止めから徒歩で 40 分くらいまでが保護区内で,むしろ自然の豊かな奥地は保護区から外されていた。


採れる数量にも限りがある。例えば NZ を代表する海産物のひとつでアワビの仲間であるパウアガイ(Black Foot)を北島で採る際には,12.5 cm 以上のもののみを一人一日 10 個まで持ち帰って良いという厳格な決まりがあり,守らなかった者は厳罰に処されるとある。転売も禁止されているようだ。的確なルールを設けることで,やりたい人がやりたい時に漁業をするという国民の権利を守りつつ,漁の対象となっている生き物も守る。そんな試みがなされている。詳しい記載は Fisheries New Zealand のサイトを参照のこと。


さて快晴の陽気の下,海に来てみたは良いものの,真夏のくせにさほど暑くなく,カラっとして湿度もない,実に快適な一日であった。強烈な日差しを避けて日陰に入ると,時折吹く風に肌寒く感じる時さえある。それでも,弱音を吐いてはいられない。念願のパウアガイを目指して意気揚々と乗り込んだ。



海水もさほど温かくはない,むしろ冷たい。ウェットスーツはない。スノーケルやフィンもない。マリンシューズとゴムの軍手,あとは海パン一丁だけの簡単な装備である。NZ 歴5ヶ月の移住者の実力などそんなものである。意を決して波打つ岩だらけの海に飛び込んだ!なんとしてもパウアガイを採るのだ!うおー!


おっ!でっかいイソガニがいた!
しかし,パウアガイが見つからない!


11 本足のヒトデが,ピンク色のウミウシがいた!
しかし,パウアガイが見つからない!


バカでかいカサガイが,サザエみたいなゴツい巻貝がいた!
しかし,パウアガイが見つからない!




楽しい!ひどく楽しい!
しかし,パウアガイが見つからない!


うおー!寒い!ちょっと休憩!


ここでちょっと休憩したのが良くなかった。リトライが辛かった。
勢いに任せてずっと入っていれば慣れてきただろうに。



それでも,海パンひとつで再び海に泳ぎだす。
波に揉まれながら,海藻の海を掻き分ける。


そしてその時は訪れた。
ん?あの海底の岩,岩の上に小岩があるぞ?んー?んー?


いっぺん水面に顔を出して,息を整えてから再び覗き込む。
岩の上の小岩,海藻の後ろに見えたそれは,紛れもないパウアガイだった。


素潜りをして岩にへばりつく。バールを差し込んで,一気に剥がした。
うおー!採った!採ったどー!


一度見つけてからはもうお手のもの,バンバンいた。岩の上の小岩は全部,パウアガイだった。
楽しい!楽しすぎる!あれ?寒くない?寒くない!全然!ぜーんぜん寒くない!


こうして時間を忘れて両の手に収まらないほどの収穫を得たのだった。
あんまり採っても食べきれないので,大きいのを数個ほど持って帰ることに。



生きたまま捌いて刺し身にし,でっかくぶつ切りにしてバター醤油で炒め,酢味噌で和えて肝ダレをこしらえ,それはもう幸せな日々を過ごしている。刺し身をつまみながらの NZ 産ビールが美味い!フライパン片手に飲む NZ 産ワインが美味い!すげぇ美味い!


図らずも贅沢この上ない年末となった。来年も楽しみで仕方がない。今ここにいることに,ここまで助けてくださった皆々様に心よりの感謝を。パウアガイを噛み締めつつ心よりの感謝を。それから,ビールを飲みつつ,肝ダレをすすりつつ。。


見聞読考録 2018/12/28